Webマーケティングやプロダクションに関わる人間は一日のほとんどをPCの前で過ごす事がほとんどです。首や腰や肘から手に大きな負担がかかる業務は歯科医療業界の方々と同じではないでしょうか。
しかし、実際に接客をするわけではありませんので首や腰にサポーターを巻いたりしながら自衛手段を取れる事がWeb業界の良いところでもあります。クライアントの皆様のサイトをお預かりしている現場では首に羊のネックウォーマーを巻いて放熱するPCと日々格闘しています。
今回は首をクーラーの冷風から保護するための「羊のネックウォーマー」を参考にして歯科医院の「商材開発」について考えてみたいと思います。
誰にでも売ってしまう、優れた商材
羊のネックウォーマーは見た目が可愛く、肌触りも良いので自分の年齢を考慮しなければ非常にありがたい商品です。後部にはホッカイロなどを入れるポケットがついていますので夏の冷風だけでなく真冬の寒さにも対応する事が出来ます。
先日ネット通販で同様の商品を調べてみるとなんと後部のポケットに「保冷剤」を入れて真夏の暑さに対抗する商品として売り出せていました。
変わっていたのは、商品の使用説明だけで他は一切変更がありません。
要はまったく同じ商品を「別の言い方で別の商品」に仕立てたという事です。
こ狡い方法だと思う方もいらっしゃいますが「ニーズを的確に満たす」という視点で非常に効果的でなおかつ効率のよい「商材の開発方法」だと思います。
何よりも、ネックウォーマーという商品は変えずにビジネスモデルを工夫で拡大している点は見逃す事が出来ません。
歯科医院の商材は何か?
歯科医院という医療機関を指して「商材」という言葉を使う事に嫌悪感をもたれる方も多いのではないでしょうか。医療従事者としての矜持に照らし合わせて、とても正しい感想だと思います。
この場合の商材とは消費者=患者が対価を支払う対象という意味です。
もちろん、直接的には「治療」で、広義では「健康」という幅の広い定義になります。したがって歯科医院、院長、歯科医師、スタッフの方々の考え方次第でこの「商材」が変わってくると言う事です。
歯科医院Webサイトには当然ではありますが、インプラント、審美歯科、矯正歯科などの診療科目=サービスメニューが記載されている事が多く見受けられます。弊社もそのようなページを数え切れないほど作成しておりますし、患者の情報利益を考える上で必要な項目です。
しかしそれは、冬の寒さや夏の体調不良に効果的な雑貨という表現ではなくただ単に、「羊の襟巻」という名前で陳列しているに過ぎないのではないでしょうか。
万能なネックウォーマーを売る事が出来なかったmixi
多くの方がご存じだと思いますがmixiというソーシャルネットワーク(SNS)で上場を果たしたIT企業があります。実はこのmixiは歯科医院が陥りがちな「商材開発」のミスによって経営が大きく揺らいでいます。
立ち上げ当初はgreeという同じくSNSを展開していたライバル企業と成長を競っていましたが出会い系じみた交流やアダルト系のコンテンツを黙認する事で急激に会員数を増やしました。結果、国産のSNSと言えばmixiが今でも代名詞です。
しかし、アメリカからfacebookという強力なライバルが日本に参入してきました。facebookについては説明の必要はないと思います。
そしてほぼ同時期に、mixiが先に上場することで圧倒的な差をつけていたgreeが「スマホ用のゲームで課金する」という「ゲーム会社」として急激に成長してきたのです。携帯ゲーム、スマホゲームという切り口でプロ野球のスポンサーにもなっているDeNAやgreeという言葉をこの業界に詳しくない方でもTVのCMなどで見た事があるのではないでしょうか。
上場後、このあたりからmixiは急激に収益を減らしてしまいます。自社サービスを「ネット上の掲示板とチャットの集合体」としてしか売ることのできなかった国産SNSの先駆者が迷走始めたのもこの頃です。
ネックウォーマーのように万能性のある商材を開発出来なかったばかりか、唯一の商材を投げ出すように新たなビジネスに飛びつく姿は、歯科界でも垣間見れるのではないでしょうか。
一年ごとに変わるあるIT企業の本業
多額の投資を行い、ゲームクリエーターやプログラマを雇用してDeNAやグリーと「ゲームシェアの奪い合い」に挑み、派手な消耗戦を繰り広げていたのはほんの2、3年前の事です。
当時ゲームプログラマは就職をすると準備金として数百万が支払われたそうです。そしてそのほとんどが年収で言えばサラリーマンの平均の数倍を得ているほど過熱しました。
今は3社とも大多数をリストラしているようです。
後発でゲーム事業に参戦したmixiは収益そのものは改善されましたが、人材設備への投資が増大して利益はそれほどでもなかった事と、ヒットゲームが出ないと突然収支がパンクするという綱渡り経営に陥る事になります。
そして、LINEの子会社を買収したり、投資会社を設立したりとすでに「何をやっている企業かわからない」というところまで来てしまいました。
さらに、投資会社設立は「新たなビジネスモデルを耕す畑」という位置づけでしたが「自社に現状を打破するアイデアがまるでない」事を露呈しただけでなくその投資会社へ50億という多額の資金を投下した事により「mixiはSNSの企業ではなく、SNSで集めた資本金を場当たり的に使う企業」とまで言われるようになりました。
SNS、ゲーム事業、投資会社、そして今はまたヒットゲームが生まれて株価は上昇したようです。誰に聞いても「mixiの本業」を現在進行形で答えられる人はいません。
決算に合わせて新事業や新しい試みを行っているように見えるので事実上、mixiの本業は一年ごとに劇的に変化します。
これはそのまま歯科医院経営に置き換える事が可能です。
インプラント、審美補綴、予防、小児、マウスピース矯正、そしてまた予防と医院の専門性をコロコロと変えてしまう歯科医院がmixiと被って見えないでしょうか?
「何のための健康」を商材に
健康は状態であって患者の最終的な目的ではありません。「健康になりたい理由」が必ずありますその理由を商材する事が、羊のネックウォーマーを通年のヒット商品に変えた理由になるのではないでしょうか。
患者が選ぶ歯科医院には患者の目線で「専門家」に映っているかどうかが最低条件です。流行りの診療科目に傾倒するmixiの失敗をなぞる事なく医院の専門性を「医療サービス」として磨き上げて行く事が患者の目に「専門家」と映るたった一つの方法です。
例えばホワイトニングを「ブライダル」や「就職活動」などニーズに特化したサービスとして展開している歯科医院を稀に見かけますが、Webサイトのボタンの名前だけ華やかで内容はまったく通常のホワイトニングと変わりません。
ブライダルであれば、ブライダルコーディネーターがどのように新婦に接しているか、カウンセリングの時間が通常のホワイトニングと同じでいいのか。予約の取りかたはそれでいいのか。ブライダルにホワイトニングを選択する患者が「何を求めている商材は白い歯なのか、ブライダルの完成度」なのか踏み込んだ洞察が必要です。
患者=顧客がアポイントの電話をかけてきた瞬間から治療完了までのサービスフローを徹底的に見直す事が新たな「商材開発」に繋がります。
オリジナルの「商材」がWebサイトに掲載される時、他のどんな医院と見比べても決して負ける事が無い「選ばれる歯科医院」になることでしょう。
ご自身の歯科医院のWebサイトをmixiと羊のネックウォーマーの事を思い起こしながらもう一度見直してみてください。
そこにあるのは、mixiが手にした「場当たり的な商材」でしょうか?
前者だと思われた方は、少しの工夫で万人に求められる羊のネックウォーマーを医院の中に探してみてください。必ずあるはずです。